SGLT2阻害剤、糖尿病以外でも必要?
ジャディアンス、インボカーナ、およびその他のSGLT2阻害薬は、糖尿病でない人の心不全および腎臓病の治療および予防に使用されることがあります。
糖尿病治療薬の最新クラスであるナトリウム - グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は、心血管疾患を伴う糖尿病患者のための薬物療法を一変させています。
インボカーナ(カナグリフロジン)、ジャディアンス(エンパグリフロジン)、およびこのクラスを先導する薬剤である、フォシーガ(ダパグリフロジン)は、2013年および2014年に2型糖尿病患者のHbA1c値を下げることを目的として適応され、初めて市場に登場しました。
それ以来、これらの薬剤は他の病気の治療に拡大するための着実な道を歩んできました。
2016年と2018年に、FDAはそれぞれ糖尿病患者のためにジャディアンスとインボカーナの適応を拡大しました。ジャディアンスは心血管系の死亡を減らすことが認められ、一方、インボカーナは心血管系疾患での死亡、致命的でない心臓発作、および致命的でない脳卒中を減らすことで幅広い承認を受けています。
現在、3つのSGLT2阻害剤のメーカーは、糖尿病のない人々にこれらの薬の使用を拡大するために尽力しています。
臨床試験とFDAの承認が製薬メーカーの望む通り行われれば、SGLT2阻害剤は心不全と腎臓病を治療するためにも処方される可能性があります。
驚きの調査結果
糖尿病以外の適応でのSGLT2阻害剤の力は、FDAが義務付けた心血管転帰試験(CVOT)で最初に明らかになりました。
2008年に、糖尿病薬チアゾリジンジオン(TZD)について心血管死の増加か減少かの議論が沸き起こりFDAはすべての新しい糖尿病薬に心血管安全性試験を行うよう要求しました。
FDAは、主な調査結果により、有害事象として心血管疾患による死亡、致命的ではない心臓発作、および致命的ではない脳卒中の複合を主要心臓病事象(MACE)として特定しました。
最初に完了したCVOTはジャディアンスの『EMPA-REG OUTCOME研究』でした。
これは心血管疾患と確定している、または以前、心筋梗塞または脳卒中を起こしたことがある7,020人の2型糖尿病の患者においてMACEで14%の減少を示しました。
この研究ではまた、心血管系疾患による死亡で38%、全死因による死亡で32%、心不全による入院で35%の相対リスクの減少が見られました。
TZDに関する以前の懸念を考えたとき、これらは驚くべき、かつ前例のない発見でした。
ジャディアンスの良好な結果は、それに続くインボカーナによる『CANVAS-PROGRAM研究』への期待を掻き立てました。この研究には10,142人の被験者が含まれ、そのうち34%は心血管疾患を起こしたことがない人でした。
この多様な集団で、インボカーナは複合MACEエンドポイントで14%の減少、そして、心不全による入院では33%の減少を達成しました。
CANVAS試験の二次転帰では腎臓転帰を標的とした、推定糸球体濾過率の悪化、腎臓置換の必要性、または腎臓を原因とする死亡などが、持続的に40%の減少が示されました。
しかし、CANVAS試験でインボカーナは、膝下切断の危険性を2倍にしたことが発見されました。そして、それはFDAの黒枠警告になっています。
フォシーガはまた、MACEを主要な結果として用いた試験で研究されました。
統計的に有意ではありませんでしたが、この結果は比較的わずかな(7%)のリスクの低下が示されました。
心不全と腎症の結果はより有望でした。フォシーガにも有害事象に関連したいくつかの欠点があります。
糖尿病性ケトアシドーシスおよび性器感染症は、プラセボに無作為に割り付けられた患者よりもフォシーガを服用している患者の間でより一般的でした。
それらはクラス全体にみられる有害反応のようです。
SGLT2阻害剤は心不全のリスクを低下させ、MACEエンドポイントはそれほどではありませんが、一部の心臓専門医や製薬会社にとっては目を見張るものでした。
2018年12月に、米国心臓学会議( American College of Cardiology , ACC)では、心臓専門医がSGLT2阻害剤を使用する際の指針として「専門家の合意による決定経路」を発表しました。
ACCは、単なる血糖管理から「CV (心血管)系のリスクのより包括的な低減と(糖尿病における)CVでの死亡の予防」へのパラダイムシフトの必要性があると述べました。
また、SGLT2阻害剤を処方する心血管疾患を診察する医師の合意もありました。
これまでの全ての研究において、SGLT2阻害剤の心臓保護作用は糖尿病の標準的な治療薬という状況下にありました。
一部の専門家は、心血管疾患のある糖尿病患者の間でSGLT2阻害剤をより多く使用すると、予期せぬ結果を伴う治療を複雑にし、またコストも増加すると懸念しています。
SGLT2阻害剤は、例えば、メトホルミンまたはインスリン+ ACEまたはARBを含む治療レジメンに加えることができます。
アメリカの医療公的保険CMSメディケイド(CMS Medicaid)の全国平均薬物取得費用のデータによると、1種類の一般的なメトホルミンER錠 500 mgの価格はわずか4セントです。
また、一般的なACE阻害薬である、ベナゼプリルの20mg錠の価格はわずか6セントですが、対照的に、ジャディアンス 10 mg 錠剤のNADAC市場価格は15.77ドル、インボカーナ 100 mg錠剤は15.84ドル、フォシーガ 5 mg 錠剤は15.75ドルです。
治療管理はまた第4の単剤療法のSGLT2阻害剤、ステグラトロ(エルツグリフロジン)の承認、および併用剤の急速な開発によっても複雑になっています。
併用薬剤には、メトホルミンやDPP-4阻害剤の1つなど多様にあります。
腎臓転帰に関してはSGLT2阻害剤の心血管疾患試験において二次転帰がありましたが、その結果はまさに驚くべき好ましいものでした。
今年初め、製薬会社のジャンセンは、2型糖尿病および慢性腎臓病の成人における末期腎臓病、血清クレアチニンの倍増、および腎臓または心血管系の死亡のリスクを減らすためにインボカーナの新しい適応申請をFDAに行いました。
この適応申請は、2019年4月14日にニューイングランドジャーナルオブメディスン誌に発表されたクレデンス研究からの結果に基づいています。
この研究には、2型糖尿病とアルブミン尿症性慢性腎臓病のある患者約4,400人を対象に行われました。
そこでは腎臓転帰を調査するためにインボカーナまたはプラセボを受けるために無作為に割り付けられました。
追跡期間の中央値は2.6年で、末期腎臓病、血清クレアチニンレベルの倍増、または腎臓病または心血管疾患による死亡についての相対リスクは、インボカーナ群の患者で30%低い結果となりました。
インボカーナ群の患者はまた、一連の有害な結果に苦しんでいる可能性は低く、心血管系の原因による死亡、致命的でない心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院のリスクの大幅な減少などが見られました。
ハーバード大学ジョスリン糖尿病センターのオム・P・ガンダ博士は、次のように述べています。
「クレデンス研究の結果は非常に胸躍るものでした。」
「これは、誰もがeGFR(推定糸球体濾過率)が30%〜60%という進行した疾患を含む腎臓疾患が含まれる大規模な研究であり、他の試験では検討されていません。」
現在、FDAは腎臓機能に障害がある範囲での患者におけるSGLT2薬の使用に関して、様々な制限、もしくは、推奨を行っています。
糖尿病と切り離して考える
製薬会社のベーリンガーインゲルハイム(Boehringer Ingelheim)とアストラゼネカは、糖尿病患者以外にもSGLT2阻害剤の使用を拡大することを目的とした新しい臨床試験を開始しました。
ベーリンガーインゲルハイム社は、ジャディアンスの適応を心不全にまで拡大するためのいくつかの試験を行っています。
その中で、『EMPEROR HF臨床試験プログラム』は2つの心不全についての研究があります。 『EMPEROR保存試験』は駆出率がそのまま維持されている患者を対象としていますが、一方で『EMPEROR軽減試験』は駆出率が低下している患者を対象としています。
両方とも糖尿病のある人とない人の両方を含みます。
ベーリンガー社とリリー社はまた、糖尿病の有無にかかわらず、慢性心不全患者の運動能力と心不全症状の改善におけるジャディアンスの利点を評価することを目的とした、『EMPERIAL臨床プログラム』も実施しています。
EMPEROR試験は心不全患者の長期的な罹患率と死亡率の結果に焦点を当てていますが、EMPERIAL試験はジャディアンスがうっ血性心不全の患者の日常生活の改善に役立つかどうかを調査しています。
アストラゼネカ社は3つの試験を実施しています。
DELIVER試験およびDAPA-HF試験は、糖尿病の有無にかかわらず、保存駆出率および駆出率低下の管理におけるフォシーガの役割を試験するものです。
DAPA-CKD試験は、2型糖尿病の有無にかかわらず、フォシーガが慢性腎臓病の管理にどれほど効果的であるかをテストています。
【以下のウェブサイトより引用】