メトホルミンで治療している糖尿病患者は長生き
英研究
【メトホルミンが糖尿病患者の寿命を延ばす】
この研究は、英国のウェールズにある国立大学であるカーディフ大学医学部のクレイグ カリー教授らによるもの。18万人以上にも及ぶ大規模研究により、糖尿病のない人に比べ同等以上に寿命を延ばす治療効果がメトホルミンにあることが示された。
研究チームは、スルホニル尿素薬(SU薬)を処方された1万2,222名の糖尿病患者と、メトホルミンを処方された7万8,241名の糖尿病患者の生存率を比較した。英国の医療情報データベースであるCPRD(Clinical Practice Research Datalink)のデータを使用し解析した。CPRDには英国の患者の約10%が登録しているという。
スルホニル尿素薬(SU薬)は、メトホルミンに並び、糖尿病内服治療薬の中ではもっとも多く使用されている。SU薬とメトホルミンを使用しているコホート(集団)を、年齢や性別、生活習慣、喫煙、治療状況などの基準が適合する非糖尿病患者の平均寿命と比較した。
その結果、「メトホルミンで治療した糖尿病患者の生存率は、非糖尿病患者のコホートと比較し、わずかですが、統計的に有意な改善を示しました。一方、SU薬で治療された患者は、非糖尿病患者と比較し生存率が低かったのです」と、カリー教授は述べている。
メトホルミンの効果 がんを抑制する作用もメトホルミンは世界でもっとも広く利用されている治療薬で、米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)の治療ガイドラインでは、糖尿病治療の第一選択薬に位置付けられている。
メトホルミンの特徴は、インスリン分泌促進作用はないが、それ以外の幅広い膵外作用を併せもつ薬剤という点だ。メトホルミンは肝臓における糖新生を抑制し、筋肉など末梢での糖利用を促進、腸管からのグルコース吸収を抑制することで、血糖降下作用を示す。
メトホルミンは、1950年代から使われており、長い歴史をもつ治療薬だが、1970年代にビグアナイド薬であるフェンホルミンによる乳酸アシドーシスが報告され問題となり、日本ではメトホルミンの用法・用量が一部制限されるようになった。しかし1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンを使った大規模臨床試験が欧米で実施された。
その結果、メトホルミンは、SU剤と比較して体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善する効果があるなど、メリットがあることが明らかになった。また、メトホルミン服用者での乳酸アシドーシスの発生頻度は、フェンフォルミンに比べて低いことも明らかになった。
多くの研究者は、メトホルミンは副作用が少なく、使用実績が多く、さらに後発医薬品でも入手可能なために安価であることから、最善の選択肢のひとつだと結論している。
メトホルミンを服用していた糖尿病患者の中にがんに罹患する例が少ないという観察研究も多く発表されており、同剤のがん抑制の効果も注目されている。
糖尿病予備群にも効果がある 「メトホルミンは安価で広く処方されている糖尿病治療薬です。今回の研究では、驚くべきことに、糖尿病を発症するリスクの高い予備群や、1型糖尿病患者にも有益な効果があるという結果が示されました」と、カリー教授は述べている。
メトホルミンは、がんの発症を抑えたり、心臓血管疾患を抑える効果が報告されているが、興味深いことに、糖尿病予備軍が疾患を発症する可能性を減らせることも示されているという。
もちろん、この治療薬によって2型糖尿病を治せると言うわけではない。病気が進行すれば、より積極的な治療に切り替える必要がある。「糖尿病を発症すると、統計的には平均寿命は8年短くなります。糖尿病を改善するための最善の方法は、肥満を解消し適正体重を維持することと、適度な運動を習慣として続けることです」(カリー教授)。
2型糖尿病は、米国の成人の8%が発症し、英国の成人の6%が発症する、もっとも患者数が多い慢性疾患だ。今後研究チームは、メトホルミンを処方された患者にその後どのような治療法を行うと、平均寿命を全国平均に近づけられるかを検討する研究を予定している。
記事元:http://www.dm-net.co.jp/calendar/2014/022269.php