「スーパーメラニン」が日焼けや化学熱傷による皮膚の損傷を治癒し合成クリームも日焼けから肌を守る
日付:2023 年 11 月 2 日
情報ソース:ノースウェスタン大学
概要:新しい研究において科学者らは、人間の皮膚の天然メラニンを模倣した合成メラニンは、傷ついた皮膚に局所的に塗布でき、創傷の治癒を促進できることを示しました。
これらの影響は、皮膚自体と体内の全身の両方で発生します。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
肌が日光や環境毒素にさらされたときに一日中発生するダメージを修復するスキンクリームを想像してみてください。
それが、ノースウェスタン大学の科学者によって開発された、「生体模倣合成メラニン」の可能性です。
新しい研究において、科学者らは、人間の皮膚に存在する天然メラニンを模倣した合成メラニンが、傷ついた皮膚に局所的に塗布することができ、傷の治癒を促進できることを示しました。
これらの影響は、皮膚そのものと体全身の両方に起こります。
科学者らによると、合成メラニンはクリームとして塗布すると、皮膚を日光から保護し、日光によるダメージや化学的火傷によって傷ついた皮膚を治癒することができるといいます。
この技術は、日焼けなどの損傷した皮膚によって生成されるフリーラジカルを除去することによって機能します。
フリーラジカルの活動を放置すると細胞にダメージを与え、最終的には皮膚の老化や皮膚がんを引き起こす可能性があります。
この研究は、査読付きオンラインジャーナルの『Nature npj Regenerative Medicine』において11月2日に掲載されます。
人間や動物のメラニンは、皮膚、目、髪に色素沈着をもたらします。
この物質は、日光に反応して色素沈着を増加させ、一般に「日焼け」と呼ばれるプロセスにより、細胞を太陽光による損傷から保護します。
皮膚の同じ色素も、産業源や自動車の排気ガスによる有害な環境汚染に反応して、フリーラジカルを自然に除去します。
「人々は、自分の日常生活が皮膚への損傷であるとは考えていません。」
と、共同責任著者であり、ノースウェスタン大学フェインバーグ医科大学のユージン・バウアー&グロリア・バウアー皮膚科教授であり、ノースウェスタン医学の皮膚科医でもあるカート・ルー博士は述べました。
「太陽の下を毎日素顔で歩いていると、低度の継続的な紫外線を浴びることになります。
これは日中のピーク時間帯と夏の時期にさらに悪化します。
日光にさらされた肌の老化と衣服で保護された肌の老化の比較については解っていますが、それはあまり老化の違いを感じません。」
皮膚は、加齢や環境汚染などの外部環境要因によっても老化します。
「こうした皮膚への全ての攻撃が炎症を引き起こし、コラーゲンを破壊するフリーラジカルを発生させます。」
とルー氏は述べました。
「それが、年齢を重ねた肌が若い肌と大きく異なって見える理由の1つです。」
科学者らが合成メラニンを加工したナノ粒子を作成したとき、より高いフリーラジカル消去能力を持つようにメラニンの構造を変更しました。
「合成メラニンは、ヒトのメラニンと比較して、グラムあたりより多くのラジカルを捕捉することができます。」
と、共著者であり、ノースウェスタン大学の化学、材料科学および工学、生体医工学および薬理学の教授であるネイサン・ジャンネスキ氏は述べました。
「それはスーパーメラニンのようなものです。生体適合性があり、分解性があり、無毒で、皮膚にこすりつけると透明になります。私たちの研究では、それは効果的なスポンジとして機能し、有害な要因を取り除き皮膚を保護します。」
皮膚に塗布されると、メラニンは表面に留まり、下の層には吸収されません。
「合成メラニンは皮膚を安定させさせますが、これは表層と体全体の両方で見られます。」
とジャンネスキ氏は述べました。
新しい理論への転換
10年近くメラニンを研究してきた科学者たちは、最初に合成メラニンを日焼け止めとしてテストしました。
「皮膚と皮膚細胞をダメージから守りました。」
とジャンネスキ氏は述べました。
「次に、主にラジカルを吸収する機能を持つ合成メラニンを、皮膚がダメージを受けた後に局所的に塗布することで皮膚に治癒効果をもたらすことができるのではないかと考えました。そして、まさにその通りに作用することが判明しました。」
ルー氏は、合成メラニン クリームが保護を強化するための日焼け止めブースターとして、また皮膚の修復を促進するための保湿強化剤として使用されることを思い描いています。
「日光の元へ出かけるまでも日光を浴びたびた後も塗布することができます。」
とルー氏は述べました。
「どちらの場合も、皮膚の損傷と炎症が軽減されたことがわかりました。皮膚の保護と修復を同時に行っており、それは継続的な修復です。」
このクリームは水疱やただれにも使用できる可能性があるとルー氏は述べました。
局所クリームが免疫システムを静める
ジャンネスキ氏とルー氏は、合成メラニンクリームが傷を受けた後のフリーラジカルを吸収することで免疫システムを静めることを発見しました。
成熟した皮膚細胞の外層である角質層は、その下の表皮と繋がっています。
それは表層であり、身体や外界からの信号を受け取ります。
その表面の破壊的な炎症を鎮めることによって、体はさらに炎症を起こすのではなく、治癒を始めることができます。
「表皮と上層は全身とつながっています。」
とルー氏は述べました。
「これは、これらの上層を安定させることが積極的な治癒のプロセスにつながる可能性があることを意味します。」
実験の仕組み
科学者らは化学物質を使用して、皿の中の人間の皮膚組織サンプルに水疱反応を起こしました。
この水泡は、皮膚の上層が互いに分離して現れました。
「ツタウルシのアレルギー反応のように、ひどく炎症を起こしていました。」
とルー氏は述べました。
彼らは数時間待ってから、局所用メラニンクリームを傷ついた皮膚に塗りました。
最初の数日以内に、このクリームは最初に皮膚自身のラジカル消去酵素の回復を助け、次に炎症性タンパク質の生成を停止することによって免疫反応を促進しました。
これにより一連の反応が始まり、治癒率が大幅に増加することが観察されました。
これには、その下の健康な皮膚層の保存も含まれます。
メラニンクリーム処理を行わなかったサンプルでは、水疱ができたままでした。
「この治療法には、免疫系によって調整される治癒と修復のサイクルを皮膚にもたらす効果があります。」
とルー氏は述べました。
メラニンは神経ガスなどの毒素から人々を守る可能性
ジャンネスキ氏とルー氏は、米国国防総省(DOD)と国立衛生研究所(NIH)が資金提供する研究プログラムの一環としてメラニンの研究を行っています。
これには、環境中の毒素、特に神経ガスの吸収剤としても機能する衣類の染料としてメラニンを検討することが含まれています。
彼らはメラニンで軍服を黒く染めることができること、そしてメラニンが神経ガスを吸収することを示しました。
メラニンは重金属や毒素も吸収します。
「自然にこのように作用することもありますが、私たちは合成バージョンを使用して、これらの有毒分子の吸収を最適化するように設計しました。」
とジャンネスキ氏は述べました。
科学者らは、合成メラニンクリームの有効性を臨床応用し、臨床試験を行っています。
最初の段階として、科学者らは最近、合成メラニンが人間の皮膚を刺激しないことを示す試験を完了しました。
メラニンが生体組織を高エネルギー放射線から保護しているという観察結果を踏まえると、これが放射線被ばくによる皮膚熱傷に対しての効果的な治療法となる可能性があると研究者らは推測しています。
この期待が持てる研究は、将来、放射線療法を受けるがん患者への治療の選択肢となる可能性があります。
【以下のリンクより引用】
Sciencedaily