この酵素を標的にすることで卵巣癌の進行を止めることができるのか?
高悪性度漿液性卵巣癌は卵巣癌の最も一般的な形態です。
ほとんどの人でがんは化学療法に対する抵抗性を示し再発します。今、新しい研究では、異なる種類の治療への期待が高まっています。
研究者が細胞培養物を用いて研究したところ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)と呼ばれる酵素が高悪性度漿液性卵巣癌細胞の増殖を 促進することがわかりました。
化学的にか、あるいはその遺伝子を鎮静させることによって、酵素を阻害したとき、癌細胞は分裂し増殖する能力を失いました。
酵素の活性が失われると、癌細胞は老化し、休止状態になります。この休止状態に入った細胞はそれらの細胞周期を完了することができません。
『Molecular Cancer Research』誌の最近の論文には、この研究の詳細な説明があります。
「癌細胞の最大の問題の1つは、刺激がないと永遠に成長し続ける可能性があることです。」と、ペンシルベニア州ハーシーにある ペンシルバニア州立大学医学部の細胞生理学および分子生理学の助教授であるキャサリン・M・エアード博士は、述べました。
「癌細胞の老化を引き起こすことによって、細胞はもはや分裂して成長することはできないのです。」
新しい治療法の必要性
癌は、異常な細胞が制御不能なほど増殖して腫瘤、または腫瘍を形成したときに発症する疾患です。
制御不能に成長した細胞が卵巣にあるとき、それらは卵巣癌となります。
女性の約78人に1人が一生の間に卵巣癌を発症すると言われています。
診断が非常に早い段階で行われる場合、診断後5年以上生存する可能性は90%以上です。
しかし、症状が曖昧であり、早期発見のための検査がないため、早期診断は症例の約20%ほどです。卵巣癌の患者はほとんどの人が癌が拡散し 始めるまで疾患にかかっていることに気づきません。
この新しい研究は、卵巣癌の最も一般的なタイプである高悪性度漿液性卵巣癌に関するものです。
癌は化学療法に対して抵抗性を示す傾向があるため、高悪性度漿液性卵巣癌患者の約70%に再発が見られます。
そのため、この病気を治療するための新しいアプローチが急務です。
しかし、高悪性度漿液性卵巣癌の女性のほとんどは、疾患が拡大し始めるまで診察を受けないのでその起源を特定するのは困難です。
伝統的に、癌が卵巣の覆う膜の表面組織が起源だと信じられていましたが、ごく最近の研究では、卵管を起源として疑うように認識が 変化しています。
クエン酸回路を標的に
彼らの研究のために、エアード博士と彼女の研究チームは、健康な卵管細胞と癌性の卵管細胞がどのように糖分を使用したのかについて 比較しました。
研究者らは、質量分析を使用して細胞代謝の副産物を測定することによってこれを行いました。
分光測定の結果から、チームは癌細胞がクエン酸回路で糖を使用することを好むと推論しました。
対照的に、健康な細胞は、より一般的である好気的解糖により糖を乳酸に変換することを好みました。
癌細胞はエネルギーに対する高い需要を満たすためにこの回路を使用するので、多くの癌治療では解糖が標的とされています。
しかし、解糖を標的とすることは「最善のアプローチではないかもしれない」と、ペンシルベニア州立大学医学部博士課程の学生である エリカS.ダール氏は述べています。
彼女は、健康な細胞は糖をエネルギーに変換するためにこの経路を使うので、解糖を標的とすることも健康な組織を損傷する可能性があると 説明しています。
IDH1はクエン酸回路において中心的な役割を果たします。研究チームは、酵素を遮断することでその分裂中の細胞分裂が停止することを 発見しました。
治療は進行がんを標的に
酵素を遮断することは、原発性腫瘍部位の細胞で働くだけでなく、体の他の部分に広がった癌細胞の細胞周期も阻止することができるようです。
この知見は、無増悪生存期間が酵素のレベルが低いときより長くなる傾向があることを示す他の研究からの証拠と一致しています。
卵巣癌を発症するほとんどの女性は、診断を受けた際には癌が広がっているため、新しい治療法により疾患の後期段階を標的にできることが不可欠です。
研究者らが高悪性度漿液性癌細胞で同定したIDH1の形態は、野生型、または非変異型です。
エアード博士は、食品医薬品局(FDA)が、IDH1の変異型を標的とする医薬品をすでに承認していると説明しています。
「私たちの長期的な目標の1つは、この承認された薬剤をこの形態の卵巣癌の治療薬として使用することです。」
【以下のウェブサイトより引用】
https://www.medicalnewstoday.com/articles/325764.php