アルツハイマー病には5つの異なるサブタイプがあることが判明
Nature Aging誌に掲載された最近の研究レターでは、研究者らはアルツハイマー病の不均一性を調査するために患者と対照の脳脊髄液のプロテオミクス配列決定を使用しました。
彼らの発見により、進行率や生存期間など、異なる遺伝的危険因子と疾患病態を表す5 つの分子サブタイプが明らかになりました。
これらの結果は、サブタイプごとの異なる介入要件を示唆し、状態を診断して治療するための個別化医療の必要性を強調しています。
アルツハイマー病とプロテオミクスのメリット
アルツハイマー病 (AD) は、主に高齢者が罹患する進行性の脳障害であり、記憶と認知を担うニューロンの変性を特徴とします。
65歳~74歳の5%、75歳~84歳の13.1%、84歳以上の33.3%が罹患していると推定されており、現在4,400万人が罹患していると言われその数は年々増加しています。
AD は世界中で認知症の主な原因として認識されており治療法は現在のところ判明しておらず治療は症状の管理に限定されています。
この病気の決定的な根拠はまだ特定されていませんが、遺伝学と環境への曝露がこの状態の原因であると考えられています。
最近の研究により、アルツハイマー病は単一の疾患ではなく、分子レベルで大きく異なる一連の状態を包括する用語であることが判明しました。
異なる患者が同じ臨床曝露に対して著しく異なる反応を示す可能性があることを考慮すると、残念ながら、これらの研究の進歩によりADの臨床病態生理学を解明しようと試みたこれまでの大量の文献が無効になってしまいます。
「プロテオミクス」とは、タンパク質の相互作用、機能、組成、構造とその細胞活動の研究です。
質量分析 (MS) などの最先端の「次世代」シーケンス技術を組み込んで、生体液中の何千ものタンパク質サブユニットを特定して特徴付けます。
脳脊髄液(CSF)は、脳および中枢神経系(CNS)と絶えず接触しており、脳の病態生理学的プロセスの代理としての役割を果たしているため、神経学的状態に関連した生体液の中で最も研究しやすいものです。
研究について
本研究のおいて、研究者らはアルツハイマー病患者および年齢が同じ健康な人を対照群とし、そこからのCSFを使用する症例対照コホートアプローチを使用し、プロテオミクス分析を通じてこれらのコホートにおいて示差的に上方制御および下方制御されるタンパク質を明らかにしました。
この研究サンプル群は、2000年以来、アムステルダムのアルツハイマー病センターで治療を求めているすべての患者を対象とした進行中の研究である『アムステルダム認知症コホート(ADC, the Amsterdam Dementia Cohort )』から派生しました。
研究対象基準には、異常なアミロイドマーカー(症例)の存在に基づいて確認された診断済みのADと、年齢、性別、および人口統計が一致した対照が含まれました。
両方のコホートからの CSF が収集され、高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 質量分析 (MS) – LC-MS/MS が行われました。
次に、酵素結合免疫吸着検定法 (ELISA) を使用して、アルツハイマー病の重症度と進行段階の主な決定因子であるアミロイド β42、t-タウ、p-タウ 181、およびアミロイド β42/アミロイド β40 比を測定しました。
症例と対照からの血液サンプルについてさらにアポリポタンパク質 E (APOE) 遺伝子型解析を行い、AD を増強または抑制することが知られている一塩基多型をスクリーニングしました。
T1 強調磁気共鳴画像法 (MRI) を使用して、脳萎縮パターンを視覚化し、AD患者と対照の神経画像の違いを評価しました。
最後に、初期登録時に標準化された神経心理学的検査が被験者に実施され、AD の進行速度と程度を推定するために毎年、追跡調査が行われました。
研究結果
この研究には、609 人の症例と 187 人の対照が含まれていました。
この研究に含まれたAD患者のうち107人が正常認知を示し、103人が軽度認知障害(MCI)、209人が認知症を示しました。
LC-MS/MS 分析により、3,863 個の固有のCSF タンパク質が同定され、そのうち 1,309 個のタンパク質 (28,408 個のペプチド) が参加者全員に共通であり、さらなる分析に使用されました。
これらのうち、クラスター分析により 1,058 個の AD 関連タンパク質が明らかになりました。
クラスター分析の結果と患者の臨床的特徴を組み合わせたところ5 つの異なる AD サブタイプが明らかになりました。
それらは、サブタイプ 1 がニューロン過形成、サブタイプ 2が自然免疫活性化、サブタイプ 3 が RNA 調節不全、サブタイプ 4 が脈絡叢機能不全、サブタイプ 5 が血液脳関門機能不全によって特徴付けられます。
APOE ジェノタイピングにより、同定されたクラスターが裏付けられ、各サブタイプの固有の遺伝的基盤が示唆されました。
「注目すべきことに、我々は各サブタイプが異なるアルツハイマー病の遺伝的危険因子と関連していることを発見し、CSFのアルツハイマー病の各サブタイプが特定の根底にある分子機構を反映していることをさらに裏付けました。サブタイプでは皮質萎縮パターンと生存期間も異なり、それらの臨床的関連性が強調されました。」
神経生理学的検査で明らかになったように、サブタイプは臨床病理によって大きく異なることが判明しました。サブタイプ 3 は、他のサブタイプと比較して進行速度が大幅に速かったようです。
これらのサブタイプの遺伝的および病態生理学的特異性の程度を考慮すると、個別化医療の必要性が明らかになります。
「特定の治療法から生じる副作用はサブタイプによっても異なる可能性があります。たとえば、サブタイプ 5 では抗体が血液脳関門を通過しやすくなりますが、これらの人は抗体治療で発生する可能性のある脳出血のリスクが高まる可能性があります。」
結論
本研究では、プロテオミクスを使用して、アルツハイマー病の遺伝的および病態生理学的プロファイルにおける患者固有の違いを調査しました。
研究結果から、AD患者では1,000個を超えるタンパク質が差次的に発現していることが明らかになり、また、重要な点では、ADには遺伝的および臨床的基盤が異なる少なくとも5つの異なるサブタイプが含まれることが明らかになりました。
「分子プロセスの明確なパターンとアルツハイマー病の遺伝的リスクプロファイルを考慮すると、アルツハイマー病のサブタイプには特定の治療が必要になる可能性が高いようです。
例えば、サブタイプ1の患者には TREM2 活性化治療が、サブタイプ 2 には自然免疫阻害剤が、サブタイプ 3 にはRNAプロセシングを回復するアンチセンスオリゴヌクレオチドが、サブタイプ4は単球浸潤の阻害、そして、サブタイプ5は、脳血管治療により効果がもたらされる可能性があります。」
【以下のリンクより引用】
Alzheimer's disease found to have five distinct subtypes
News Medical Net
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