インスリン抑制酵素を特定…糖尿病治療薬開発に期待
自然科学研究機構基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)は、野田昌晴教授らの研究グループが、動物の細胞膜にある「インスリン受容体」の働きを、R3RPTPと呼ばれる酵素が妨げていることを突き止めたと発表した。
インスリン受容体はインスリンと結合し、細胞内にその情報を伝える働きをするたんぱく質で、その機能を阻害する物質があることは推定されていたが、正体がわかったのは初めて。研究成果は、日本生化学学会の専門誌「ジャーナル・オブ・バイオケミストリー」11日付オンライン版に掲載される。
インスリンは膵臓すいぞうから分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きがある。インスリンがインスリン受容体と結合すると、細胞内にあるアミノ酸の一種・チロシンを活性化させることで情報が細胞内に伝達され、血液中のブドウ糖が取り込まれ、血糖値が低下する。
野田教授らの研究グループは、ヒトやサルの細胞を使った実験でR3RPTPがインスリン受容体を構成する特定のチロシンと結びつき、「脱リン酸化」と呼ばれる作用で働きを抑制していることを突き止めた。
さらにR3RPTPをつくる遺伝子を欠損させたマウスにブドウ糖を注射したところ、一般のマウスと比べて血糖値の低下速度が約30%速かった。
この結果から、野田教授らは「R3RPTPの作用を妨げることで、少ないインスリンでも高血糖を改善できると考えられ、糖尿病の治療薬として開発が期待できる」としており、具体化に向けて検討を始めているという。
(2015年6月11日 読売新聞)