ダウン症の子供たちの白血病は予防可能か?
カナダにあるプリンセス・マーガレット病院の研究者らは初めて、非臨床試験でダウン症の乳児の白血病がどこでどのように始まり、どのように発症するかを明らかにし、将来この癌を予防する可能性への道を開きました。
ダウン症の子供は、生後5年以内に骨髄性白血病を発症するリスクが150倍高くなります。しかし、21番染色体の余分な1本(コピー)が白血病の素因となるメカニズムは不明なままです。
ダウン症は、21番染色体が1本余分にある、初期の人間の発達における細胞分裂の何らかの異常によって引き起こされる遺伝性疾患です。
この余分なコピーが、白血病の素因を含む、症候群に関連する発達上の変化と身体的特徴を引き起こします。
しかし、白血病が胎児の発育で始まる正確な血球タイプについては、この細胞を前白血病にする遺伝的変化とともに、これまで研究者は理解できていませんでした。
さらに、前白血病を急性白血病に変換してしまう、小児期に蓄積されるはずの他の突然変異についても解っていませんでした。
プリンセス・マーガレット病院がん研究センターの上級科学者であるジョン・ディック博士の研究室によるダウン症の白血病の初期進化の研究と結果は、2021年7月9日にサイエンス誌に発表されました。
筆頭著者はエルビン・ワーゲンブラスト博士、そして、共同主筆者はエリック・レックマン博士とディック博士でした。
「人が病気と診断される前に、一連の細胞変化のすべてがすでに起きています。」
とディック博士は説明します。
「その時点で、どの一連の変化が最初に起きたのかを知ることはできません。それがすでに発生していることを知るだけです。」
「私たちの研究は、初めて、人間の白血病プロセスへの洞察となります。最終的には、急性白血病が前白血病である初期段階で治療が行われ、本格的な白血病への進行を防ぐことで、この急性疾患を予防できる可能性があります。 」
この研究ではワーゲンブラスト博士、そして、レックマン博士らによって開発された、ヒト血液幹細胞の遺伝子改変のために強化された『CRISPR/Cas9メソッド』とともに、ヒト組織バイオバンクからのヒトダウン症候群細胞を含む前臨床モデルが使用されました。
博士らは、この特定の白血病の進化に関与するステップの図式化を始めました。
一過性前白血病は、ダウン症の新生児に頻繁に発生する独特の状態であり、出生後数日から数か月以内に自然に消失するか、一部の人では他の突然変異により4年以内に急性骨髄性白血病に変化します。
博士らによりこの研究で明らかにされたことは、胎児での始まりから小児期での白血病へのさらなる進行まで、一過性の前白血病に関連する明確な細胞および遺伝的事象でした。
具体的には、研究チームはさまざまな血球タイプをテストし、一過性の前白血病が、ダウン症の胎児での『第2トリメスター』という早い段階で、長期的にGATA1変異を伴う造血幹細胞(HSC)にのみ起因することを特定することができました。
前白血病は、ダウン症でない血液サンプルからのHSCでは始まりません。
HSCだけが、自己再生のための独自の継続的な能力により血液システム全体を再生し、長期的な血液の生産活動を維持することができます。
より広い視野で、小児白血病の細胞起源が長期的なHSCのみに限定されているという事実は、ダウン症以外の他の種類の小児白血病の洞察に影響を与える可能性があります。
急性白血病は、最初の2つの突然変異(21番染色体の3本目の余分なコピーとGATA1突然変異)が起こり、長期のHSCが下流での結果を「プライミング」し、急性白血病につながる完全な形質転換という、さらなる突然変異があった後にのみ発生すると、
は、レックマン博士は説明しています。
「私たちは実際に前臨床モデルで人間の病気を作り出しました。これは、遺伝子編集された正常なヒト血液幹細胞がその中でどのように振る舞うかを示すことによって行われ、白血病はどのように進行するかを示す進歩的なステップを再現することに成功しました。」
とディック博士は述べています。
「私たちは今、これらの突然変異が白血病を引き起こすときに引き起こしている遺伝的異常に関して多くの手がかりを持っています。」
研究チームはまた、『CD117 / KIT』を、細胞を増殖させる変化した疾患駆動幹細胞上のユニークなタンパク質細胞表面マーカーとして特定しました。
前臨床モデルでの設定では、研究者は、急性白血病への進行を防ぐために、小分子CD117 / KIT阻害剤を使用して前白血病幹細胞を標的にして排除することができました。
研究者らは、この予防戦略はダウン症の新生児に使用される可能性があり、胎児の発育中に始まることが知られている他の小児白血病にも拡大する可能性があると述べています。
「前癌病変を標的とし、癌への進行を防ぐことができることの臨床的重要性は大きいです。これは小児癌の分野で変革をもたらすでしょう。」
とディック博士は述べています。
【以下のリンクより引用】
Can leukemia in children with Down syndrome be prevented?
Medical Xpress