フェノキシベンザミンの抗腫瘍活性とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害について
本研究の主要な発見は、アルファアドレナリン遮断薬であるフェノキシベンザミンがヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有することが認められた点にあります。
フェノキシベンザミンは、褐色細胞腫である副腎腫瘍を伴う高血圧クリーゼの治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に承認されています。ただフェノキシベンザミンには、血管平滑筋や泌尿生殖器系の導管の平滑筋を弛緩させる作用に関連した、適用外での使用方法がいくつかあります。またフェノキシベンザミンには、神経障害性疼痛症候群の重篤な症状を効果的に改善、さらには逆進させてきた長い歴史があります。フェノキシベンザミンのこうした特性において興味深い点は、特に複合性局所疼痛症候群のような神経障害性疼痛は、損傷のある手足から損傷の無い手足や全身へ広がる増殖性を示す点にあります。
研究では、疼痛性刺激により感覚入力が高まっている状況下において、脊髄の感覚ニューロンの観察を行いました。MSigDBの遺伝子発現解析ソフトウェアを用いて遺伝子発現を探索したところ、フェノキシベンザミンがヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有する可能性が示されました。他の研究では、ヒトの腫瘍細胞培養におけるフェノキシベンザミンの阻害活性の成長や侵入、移動が報告されており、ある1つの研究では、動物研究おける腫瘍拡張の阻止が確認されました。
ヒトの腫瘍細胞培養に対する阻害活性は、本研究でも報告されています。フェノキシベンザミンはまたヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有することが確認されており、ヒストン脱アセチル化酵素のアイソフォーム5、6、9が最もフェノキシベンザミンの阻害活性に対して敏感であることが分かりました。
悪性疾患の予後不良におけるバイオマーカーとしてのこうしたアイソフォーム濃度上昇や、この阻害活性により生じた可能性のある腫瘍成長抑制の重要性は、フェノキシベンザミンの新しい医療利用の可能性を示すものです。フェノキシベンザミンは既に承認された成分であるため、こうした新規の臨床応用も容易である可能性があります。フェノキシベンザミンのがヒストン脱アセチル化酵素阻害活性に関する報告は、過去にはありません。
PLOS ONE Publications, 2018年6月13日
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0198514