メトホルミンは空腹と同様の方法で『再ミエリン化』を促進する
食事制限を模倣するために作用する一般的な糖尿病治療であるメトホルミンは、高齢のマウスの幹細胞の再ミエリン化を促進することが確認され、 多発性硬化症の治療に役立つ可能性が示唆されました。
『メトホルミンは老化した幹細胞を若返らせることで中枢神経系の再ミエリン化能力を回復』
というタイトルの研究内容がCell Stem Cell誌に掲載されました。
多発性硬化症(MS)の特徴は、ニューロン(神経細胞)の周囲の保護鞘であるミエリンが失われることです。
そのため、失われたミエリンの置換を促進する再ミエリン化プロセスと呼ばれるMS治療が必要です。
ミエリンは『希突起膠細胞、オリゴデンドロサイトoligodendrocytes』と呼ばれる細胞によって作られています。
これらの希突起膠細胞は、希突起膠細胞前駆細胞(OPCs)と呼ばれる特殊な幹細胞に由来しています。
この研究は、ラットが加齢すると、OPCsが老化に一般的なプロセスである機能性希突起膠細胞に容易に成熟する能力を失うということを最初に 示しました。
研究者らは、適切な刺激が与えられると、若いマウスのOPCsの約60%が成熟した希突起膠細胞に成長し、老齢のマウスでは希突起膠細胞に 成熟するのは20%未満であることを発見しました。
その後、研究者は、月齢20ヶ月〜24ヶ月の老齢のマウスと月齢2ヶ月~3ヵ月の若齢マウスのOPCを比較し、老化したOPCが細胞の老化に関連する特定の細胞変化を示し、特にエネルギーが生成される細胞の発電所の役割があるミトコンドリアへ変化しました。
「ほとんどの再生プロセスと同様に、再ミエリン化の効率は加齢とともに徐々に低下し、最終的にできなくなるほど遅くなります。」と彼らは 記しています。
「これは、数十年に及ぶ可能性のある多発性硬化症(MS)などの慢性脱髄疾患に重要な意味を持っています。
再ミエリン化の遅延により、多発性硬化症の後期で脱ミエリン化された軸索は、明らかな「不可逆的な変性」が起きやすくなります。
研究チームは、これらの細胞の変化を標的にすると、オリゴデンドロサイト前駆細胞がオリゴデンドロサイトへの変換能力が向上し、ひいては、 再ミエリン化が促進されるのではないかと考えました。
研究者は、動物に対して2つのアプローチを使用しました。
1つ目は隔日に断食を行い、マウスに1日おきにしか餌を与えませんでしたが、この方法は細胞の老化を制限するということが知られています。
2つ目は、糖尿病患者の血糖値を下げるために使用される「低分子空腹模倣薬」のメトホルミンを与え、AMPKと呼ばれるタンパク質を介して 作用します。
このタンパク質は、ミトコンドリアが意図したとおりに細胞エネルギーを生成する働きをするのに重要な役割を果たします。
結果は、両方のアプローチが高齢のマウスの希突起膠細胞の形成を促進し、より良いミエリン修復につながることを示しました。
ミエリン損失を化学的に誘発された病変を持つマウスでは、隔日絶食とメトホルミン投薬の両方も、どちらの治療アプローチも与えられなかったマウスと比較して再ミエリン化を改善しました。
「OPCsに対する老化の影響を克服することは、再ミエリン化の寛容な環境を作り出す上で重要です。食事制限やその効果を模倣する薬物などの介入は、OPCsや再ミエリン化に寄与する他の細胞タイプの機能を変更する可能性が高いため、慢性脱髄性神経変性疾患の治療に二重の利益をもたらす可能性があります。」
ケンブリッジ大学の教授であり研究の共著者であるロビン・フランクリン博士は、この発見について、「これまでにないミエリン修復療法の最も重要な 進歩の1つ」と呼びました。
「この発見は、細胞がミエリンを再生する能力を失う理由、そして、このプロセスがどのように逆転する可能性があるかを明らかにしました。これまではマウスでの研究が行われてきましたが、すぐに人間での研究を進めたいと考えています。」
とフランクリン博士は付け加えました。
【以下のリンクより引用】
Metformin Works to Promote Remyelination in Ways Similar to Fasting, Study Says
MULTIPLE SCLEROSIS NEWS TODAY