創傷治癒のための新しいアプローチ
私たちの体は、切り傷や擦り傷などの傷を自分で治すことがよくあります。
しかし、糖尿病、血管疾患、皮膚疾患を持つ患者では治癒が困難な場合があります。そして、これは慢性的な傷につながり、生活の質に深刻な影響を与える可能性があります。
慢性創傷の管理はヘルスケアシステムにとって大きなコストであり、米国だけでも年間100億〜200億ドルが費やされています。
それでも、なぜ一部の創傷が慢性化するのかについてはほとんどわかっていないため、治癒を促進する効果的な治療法を開発するのは困難です。
ジェファーソン大学の新しい研究では、創傷で見つかった細胞をサンプリングする新しい方法が、廃棄された創傷を覆っていた包帯を使用して説明されています。
この非侵襲的なアプローチは、創傷の細胞構成に関する研究の足掛かりとなり、そして、慢性になる創傷と比較して治癒する可能性のある創傷の特徴を特定する機会を提供するとともに、標的療法の開発への情報となります。
この研究は、9月15日にScientific Reports誌に掲載されました。
「人間の創傷治癒を研究することは非常に困難であり、そして、人間のプロセスについてはほとんどわかっていません」
と、研究の筆頭著者の一人である皮膚科学および皮膚生物学部門の准教授のアンドリュー・サウス博士は述べました。
「私たちが知っていることは、動物実験から得られたことであり、動物の皮膚とそれがどのように治癒していくのかは、人間の皮膚のそれとは大きく異なります。」
サウス博士と彼の研究室は、表皮水疱症(EB)と呼ばれる遺伝性の皮膚疾患のグループを研究しています。
患者は、生まれてからすぐになかなか治癒しない水疱や病変に苦しみ、一部は慢性化します。
一部の患者では、慢性創傷は侵攻性の皮膚癌に発展する危険性が高いといわれています。
現時点では、特定の患者のどの創傷が治癒し、どれが治癒しないかを予測することは非常に困難です。
傷をサンプリングできることは、治癒の背後にあるメカニズムを理解するための鍵となります。
「創傷の細胞を採取するために生検を行うことは、これらの創傷の違いを理解するのに役立ちます。」
とサウス博士は述べています。
「しかし、これらの患者の生検は非常に苦痛であり、創傷の治癒をさらに遅らせる可能性があります。ただ捨てられるこれらの包帯を集めることは、患者に害を及ぼすことはなく、創傷が適切に治癒しない様々な状態を調査することができます。」
チリとオーストリアの共同研究者を含めたこの研究の研究者らは、51人のEB患者から133個の廃棄された創傷部分を覆っていた包帯を収集して分析しました。
急性創傷と慢性創傷の両方がサンプリングされ、急性は21日以内に損傷が存在し、慢性では3か月以上創傷が存在すると定義されました。
「以前の研究では、創傷を覆う包帯を使用して体液を収集し、そこに含まれるタンパク質を調べていました。」
とサウス博士は言います。
「しかし、実際にはどの細胞が存在するのかを確認できませんでした。私たちの研究室が頻繁に使用する手法を適用することで、生存細胞または生細胞を包帯から分離することができました。」
研究者たちは、多くの場合1億個を超える大量の細胞を包帯から回収しました。
創傷が大きいほど、また包帯が創傷にかかっている時間が長いほど、より多くの細胞が回収できました。
その後、研究者らは、細胞を特徴付けて、どのタイプの細胞が創傷に存在するかを調べました。
彼らは、リンパ球、顆粒球または好中球、および単球またはマクロファージを含むさまざまな免疫細胞を検出しました。
急性創傷と慢性創傷の包帯を比較すると、慢性創傷部位に好中球の数が大幅に多いことがわかりました。
好中球は私たちの免疫システムにおける第一線の防御であり、創傷が形成され始めると、それらが最初に患部に到達します。
「動物の研究、およびヒトの創傷被覆材のタンパク質分析による以前の発見は、好中球が必要以上に長く滞留すると、治癒プロセスを停止させ慢性化につながる可能性があるという考えを裏付けていました。」
とサウス博士は言います。
「私たちの調査結果は、慢性創傷に好中球のレベルが高いことを特徴とすることを示すことにより、その理論をより明確に裏付けています。」
これらの調査結果は、創傷の治癒に対してより多くの洞察を与え、プロセスを促進する治療法の開発に役立つ可能性があります。
たとえば、過剰な好中球を中和したり、好中球の後の治癒の次の段階を開始する免疫細胞であるマクロファージを集めたりすることです。
研究者らは、現在、創傷を覆っていた包帯から収集された個々の細胞と、それらの内部の遺伝物質をさらに分析することにより、彼らの技術の拡大を計画しています。
「現在、チリのサンティアゴの同僚と協力して、一定期間にEB患者からの使用した包帯の収集に取り組んでいます。」
とサウス博士は言います。
「これにより、患者を長期間追跡し、傷を観察し、治癒するのか、あるいは治癒しなかったときにその細胞組成がどのように変化するかを観察することができます。」
研究チームは、これにより、治癒または慢性になることを予測できる遺伝的マーカーが明らかになることを期待しています。
「このサンプリング方法は、新生児では特に困難な綿棒や採血の代わりになるかもしれません。」
とサウス博士は言います。
「EBは、出生時に現れる可能性があることがわかっているので、この手法は、疾患がどれほど深刻であるかについて、本当に早い時期での洞察を私たちに与えてくれます。」
現在の研究はEBに焦点を当てていますが、サウス博士と彼の同僚は、この技術が糖尿病性足潰瘍や血管性下肢潰瘍などの、他のさまざまな状態に適用できることを期待しています。
「創傷治癒の分野は、慢性創傷を引き起こすものを、よりよく理解するために求められています。」
とサウス博士は言います。
「この手法は変革をもたらす可能性があり、最終的に患者がより快適で健康的な生活を送るのに役立ちます。」
【以下のリンクより引用】
A new approach to understanding the biology of wound healing
Medical Xpress