新世代のmTOR阻害剤は薬剤耐性腫瘍の治療がターゲット
ハワードヒューズメディカルインスティテュートの科学者たちは、多くの腫瘍の成長を促進する分子であるmTORを阻害するための
独自の戦略を使用する潜在的な癌治療薬を編み出しました。
動物実験によるとこの薬物は初期世代のmTOR阻害剤に耐性のある腫瘍の大きさを縮小します。
2016年5月18日に『Nature』誌に報告されたこの研究は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者であるケバン・ショカット氏と
メモリアルスローンケタリング癌センター(Memorial
Sloan Kettering Cancer Center)のニール・ローゼン氏が主導しました。
抗がん剤のいくつかは、がん細胞でしばしば破壊される増殖調節ネットワークの重要な部分であるmTORを遮断することによって
腫瘍の増殖を阻止する作用があります。
これらの薬の中で最も古いものは、ラパマイシン、そしてラパログと呼ばれる関連分子を持つ薬剤ですが、これらは腎臓癌や乳癌など、
数種類の癌の治療においてはある程度成功しています。
ラパログよりも強力にmTORシグナルの伝達を遮断するように作られた第二世代mTOR阻害剤が、現在、臨床試験で評価されています。
残念なことに、腫瘍は数ヶ月または数年、効果的な治療が施された後、ラパログに抵抗性となる可能性があります。
そしてそれはおそらく第二世代のmTOR阻害剤にも抵抗性が生じると思われます。
そのことが分子標的癌療法においての一般的な問題であるとショカット氏は言います。
しかし、癌細胞を薬剤耐性にする変化を研究者が理解すれば、次世代治療法の開発に取り組むことができます。
ショカット氏らは、この問題を回避しようと考え、患者の最新の治療法に対する耐性の発現を待たずに、第三世代のmTOR阻害剤について考え始めました。
耐性がどのように発生するかを予測するために、ローゼン氏のチームはラパマイシンまたはADZ8055という第2世代のmTOR阻害剤のいずれかを用いて、
実験室で増殖した乳癌由来細胞を3ヶ月間、観察しました。
ほとんどの細胞は死滅しましたが、予想されるように、いくつかの細胞は生き残りそして増殖しました。
研究者らは、それらの薬剤耐性細胞を調べて、それらが繁殖することを可能にした特定の変化を確認しました。これは、同じ変化が薬剤を受けた患者にも
生じる可能性があるためです。
それからローゼン氏のチームは癌患者からの腫瘍を分類した遺伝的データベースでの突然変異について調査しました。
驚いたことに、実験室で増殖した細胞をADZ8055では耐性にした突然変異は、治療前でも患者の腫瘍に存在していました。
「それは本当にショックでした。通常それらは薬物誘発による突然変異だからです。」
とショカット氏は言います。
腎細胞腫瘍(最も一般的な種類の腎臓癌)の約10%に見られるこの変化は、mTORの活性を高め、ADZ8055の投与の有無にかかわらず、
腫瘍の増殖を促進することを意味していました。
その腫瘍が突然変異を持っていた患者は、第二世代のmTOR阻害剤に決して反応しないだろうと、ショカット氏は言います。
「プロジェクトの主旨はすぐに、“将来、患者はこれらの突然変異を起こすことになるので、私たちは薬を必要とすることにるでしょう。”から、
“患者はすでにこれらの突然変異を持っています。処方薬に対して耐性があります。”に変わりました。」
研究者らは、以前の物とは異なる働きをするmTOR阻害剤が必要であることを知りました。
薬剤の開発は、ショカット氏は免疫システムから思いつきました。
抗体は、2つの抗原結合チップを持つY字型構造があるおかげで、
急速に変化する標的腫瘍への結合に優れています。
2つの結合部位は抗体に対して、それらの標的に対する強い親和性を与えるとショカット氏は言います。
そして彼は、2つの場所でmTORに結合する阻害剤を作り出すことによって模倣したいと考えました。
彼は、分子の一部に結合する第一世代のmTOR阻害剤を、近くの別のポケットを標的とする第二世代の阻害剤に結合することによってこれを行いました。
『ラパリンク(Rapalink)』と呼ばれる新しい阻害剤は、両方の場所でmTORをとらえ、初期世代の阻害剤よりもよりよく結合します。
さらに、二叉阻害剤では、それが単一阻害剤の結合を妨げる突然変異の性質を含んでいても、mTORをとらえることができます。
それは両方のmTOR結合部位が薬剤に完全に一致することが必須ではないためです。
ショカット氏は次のように説明しています。
『阻害剤の端の片側が一旦その標的に固定されると、そのもう一方の端はそれ自身の結合ポケットの近くにつながれます。
そのため標的を捕まえることができるようです。
科学者たちは、ラパリンクが癌細胞の内部に入り込んでmTORを遮断する可能性があることを明らかにしました。
彼らはまた、ラパリンクについて、動物実験における腫瘍の増殖阻害性能を試験し、それが第一世代または第二世代のmTOR阻害剤に耐性である
腫瘍のサイズを縮小することを見出しました。
「それは良好に作用しました。」
とショカット氏は言います。
科学者らはラパリンクの癌治療薬としての可能性を引き続き評価する予定です。
【以下のウェブサイトより引用】