片頭痛を伴う、または伴わないメニエール病の予防治療におけるシンナリジンとベタヒスチンの関連性
【要約】
メニエール病(MD)の予防的治療には、ベタヒスチンおよびカルシウム阻害薬が使用されています。(後者は片頭痛予防にも効果的です)本研究は、ベタヒスチン単独治療には殆ど反応しない、片頭痛を伴うまたは伴わないメニエール病被験者に対する、シンナリジンとベタヒスチンとの併用療法の有効性の評価を目的としました。研究は6ヶ月間に渡り、52名(内29名が片頭痛持ち)のメニエール病患者を対象に行われました。併用療法は、1ヶ月間ベタヒスチンを1日48mg、シンナリジンを1日20mg(前半2週間は1日20mgを投与、後半2週間は2日に1回20mgを投与)のサイクルを繰り返して実施されました。結果として、片頭痛を伴う、または伴わないメニエール病双方において、シンナリジンとベタヒスチン併用による治療期間中、めまいと片頭痛発作の減少が見られました。また片頭痛を伴うメニエール病患者の被験者においては、めまいの減少と片頭痛の減少の間に相関が見られました。本研究結果では、特に片頭痛を伴うメニエール病患者のめまい予防において、シンナリジンの積極的な役割が示されています。
【序論】
メニエール病は、繰り返し起こるめまいや難聴、耳閉感、耳鳴りの発生を特徴とする内耳障害です。水腫は内耳の損傷により起こるという考え方もありますが、一般にメニエール病は内リンパ圧の増加により発症すると考えられています。
米国耳鼻咽喉科学会-頭頸部外科(AAO-HNS)によって1995年に確立された明確なメニエール病の診断基準は、主に偶発性めまいの表現型に基づいており、少なくとも20分間に2回めまい発作を経験し、一度は聴力検査による感音性難聴の診断を受け、めまい発症時に耳鳴りや耳閉感があり、他に潜在的なめまいの原因が無いことが挙げられます。めまいのない期間の難聴の実例は、メニエール病の診断には必要とされません。
片頭痛は、拍動性の痛みを伴う偶発性の頭痛を特徴とする神経学的障害であり、その多くが音過敏や羞明と関連付けられ、女性の有病率は15-17%、男性は5-8%となっています。
疫学的研究では、メニエール病患者の43%から56%が片頭痛を併発しているとの報告がされています。メニエール病患者における片頭痛の頻発は、これら二つの疾患の病態生理学関連性を示す可能性があります。最近の論文は、片頭痛自体がめまいの発症を誘発し得るという証拠の増加に注目しており、この臨床単位は前庭片頭痛と定義されています。
前庭片頭痛においても聴力の変動は報告されているものの、メニエール病の診断では、数ある症状の中でもやはり聴力検査の結果に重点を置いています。その為いくつかのケースでは、めまい発症の初期段階では、メニエール病と前庭片頭痛の診断区別は、ややこしいジレンマとなり得ます。
片頭痛の予防治療では主にカルシウム阻害薬が最も幅広く使用されますが、メニエール病におけるめまいの発症予防においては、ベタヒスチンが有効であることが実証されています。シンナリジンもまたメニエール病の単独療法としての研究がされてきましたが、本研究ではメニエール病患者の被験者36名において、めまい発祥の予防における有効性はベタヒスチンよりも劣ることが確認されました。また最近の研究報告では、ニモジピンの併用により、ベタヒスチンのメニエール病患者におけるめまい発症予防の有効性が向上する可能性に焦点が当てられています。
【考察】
前述の通り、片頭痛とメニエール病はしばしば併存疾患の症状を示します。さらに、片頭痛患者の約51%がめまいに悩まされています。メニエール病と前庭片頭痛の診断区別が難しいケースがあり、その診断は大半を聴力検査に依存しています。しかし前庭片頭痛には、変動する低音域難聴の症状があります。
カルシウムチャネル遮断薬は片頭痛予防において有用であることが実証されており、めまい発症の防止には抗片頭痛薬(カルシウム阻害薬を含む)が有効であるというデータがあります。とりわけシンナリジンは前庭片頭痛を改善し、またメニエール病患者の渦巻管と前庭における症状両方を改善するとの報告がされています。シンナリジンは、電位依存性カルシウムイオン電流を介して作用すると長年信じられきました。しかし最近の研究では、内リンパ水腫がある場合に活性化される可能性のあるK+電流にて起こると考えれれています。フルナリジンもまた、カルシウム侵入遮断特性により内耳灌流の増加を引き起こすため、末梢のめまいに有効であることが示されています。最近のレトロスペクティブ研究では、ニモジピンとベタヒスチンでの予防療法を受けたメニエール病患者では、ベタヒスチン単独投与での治療を受けた患者と比べ、めまい発症数の減少が見られました。
本研究では、片頭痛を伴う、または伴わないメニエール病におけるベタヒスチンおよびカルシウム阻害薬の有効性が確認され、特に片頭痛を伴うメニエール病において大変良い結果が得られました。しかしながら、難聴の症状は双方のグループにおいて進行し、何かしらの有益な効果も見られませんでした。
これらの研究結果を説明するには、二つの可能性が考慮されるべきです。まずこれら2つの疾患の関連性は、血管の変化によるものであるという可能性が示唆されています。血管けいれんは、長い間片頭痛に関連した特徴(視覚的前兆等)であると考えられてきました。研究者の中には、片頭痛の血管けいれんが内耳の小動脈虚血性損傷を引き起こし、損傷の起きた部位で内リンパ水腫が発生することが原因で、メニエール病と片頭痛の併発が起こるという考えがあります。
一方、片頭痛はメニエール病の発作頻度に影響する可能性があります。メニエール病では月経期間中にめまい発作が増加することがありますが、片頭痛についても同様に月経期間中の増加が見られます。
また片頭痛を患う若い女性に時折起こる低音域難聴に関しても、主に月経期間中に発生するとの報告があります。両ケースにおいて、カルシウム阻害薬はメニエール病の発作予防に効果的であると言えます。
一般的にこれら二つの疾患への根本的なかかりやすさは、カルシウムやその他イオンの重要性によって証明できるでしょう。内耳のイオンチャネルは、内リンパの維持に必要な高いカリウム濃度に不可欠です。カルシウムイオン濃度の増加や減少は、伝達電流を抑圧することが確認されています。とあるマウスを用いた実験では、カルシウムイオンが欠乏したマウスには、遅発性の難聴が見られたという報告があります。さらに、モルモットに対して実験的に内リンパ水腫を誘発した際には、前庭末端器官内でのカルシウムイオン濃度の上昇がみられました。
この研究は小規模で行われましたが、片頭痛を伴う、または伴わないメニエール病に対するシンナリジンの効果の違いを示しています。また、メニエール病の前庭と渦巻管の症状に対するシンナリジンの異なる作用についても推測されます。こうした作用の違いの原因を定義するには、さらなる研究が必要です。
【結論】
本データは、特に片頭痛を伴うメニエール病予防におけるにおけるベタヒスチンとシンナリジンの有効性を明確にしました。こうした症例における片頭痛の予防はめまい発作の減少に繋がるか否かについては、さらなる研究がなされる必要があります。
PMC Journals, 2014年10月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4096024/
メニエール病(MD)の予防的治療には、ベタヒスチンおよびカルシウム阻害薬が使用されています。(後者は片頭痛予防にも効果的です)本研究は、ベタヒスチン単独治療には殆ど反応しない、片頭痛を伴うまたは伴わないメニエール病被験者に対する、シンナリジンとベタヒスチンとの併用療法の有効性の評価を目的としました。研究は6ヶ月間に渡り、52名(内29名が片頭痛持ち)のメニエール病患者を対象に行われました。併用療法は、1ヶ月間ベタヒスチンを1日48mg、シンナリジンを1日20mg(前半2週間は1日20mgを投与、後半2週間は2日に1回20mgを投与)のサイクルを繰り返して実施されました。結果として、片頭痛を伴う、または伴わないメニエール病双方において、シンナリジンとベタヒスチン併用による治療期間中、めまいと片頭痛発作の減少が見られました。また片頭痛を伴うメニエール病患者の被験者においては、めまいの減少と片頭痛の減少の間に相関が見られました。本研究結果では、特に片頭痛を伴うメニエール病患者のめまい予防において、シンナリジンの積極的な役割が示されています。
【序論】
メニエール病は、繰り返し起こるめまいや難聴、耳閉感、耳鳴りの発生を特徴とする内耳障害です。水腫は内耳の損傷により起こるという考え方もありますが、一般にメニエール病は内リンパ圧の増加により発症すると考えられています。
米国耳鼻咽喉科学会-頭頸部外科(AAO-HNS)によって1995年に確立された明確なメニエール病の診断基準は、主に偶発性めまいの表現型に基づいており、少なくとも20分間に2回めまい発作を経験し、一度は聴力検査による感音性難聴の診断を受け、めまい発症時に耳鳴りや耳閉感があり、他に潜在的なめまいの原因が無いことが挙げられます。めまいのない期間の難聴の実例は、メニエール病の診断には必要とされません。
片頭痛は、拍動性の痛みを伴う偶発性の頭痛を特徴とする神経学的障害であり、その多くが音過敏や羞明と関連付けられ、女性の有病率は15-17%、男性は5-8%となっています。
疫学的研究では、メニエール病患者の43%から56%が片頭痛を併発しているとの報告がされています。メニエール病患者における片頭痛の頻発は、これら二つの疾患の病態生理学関連性を示す可能性があります。最近の論文は、片頭痛自体がめまいの発症を誘発し得るという証拠の増加に注目しており、この臨床単位は前庭片頭痛と定義されています。
前庭片頭痛においても聴力の変動は報告されているものの、メニエール病の診断では、数ある症状の中でもやはり聴力検査の結果に重点を置いています。その為いくつかのケースでは、めまい発症の初期段階では、メニエール病と前庭片頭痛の診断区別は、ややこしいジレンマとなり得ます。
片頭痛の予防治療では主にカルシウム阻害薬が最も幅広く使用されますが、メニエール病におけるめまいの発症予防においては、ベタヒスチンが有効であることが実証されています。シンナリジンもまたメニエール病の単独療法としての研究がされてきましたが、本研究ではメニエール病患者の被験者36名において、めまい発祥の予防における有効性はベタヒスチンよりも劣ることが確認されました。また最近の研究報告では、ニモジピンの併用により、ベタヒスチンのメニエール病患者におけるめまい発症予防の有効性が向上する可能性に焦点が当てられています。
【考察】
前述の通り、片頭痛とメニエール病はしばしば併存疾患の症状を示します。さらに、片頭痛患者の約51%がめまいに悩まされています。メニエール病と前庭片頭痛の診断区別が難しいケースがあり、その診断は大半を聴力検査に依存しています。しかし前庭片頭痛には、変動する低音域難聴の症状があります。
カルシウムチャネル遮断薬は片頭痛予防において有用であることが実証されており、めまい発症の防止には抗片頭痛薬(カルシウム阻害薬を含む)が有効であるというデータがあります。とりわけシンナリジンは前庭片頭痛を改善し、またメニエール病患者の渦巻管と前庭における症状両方を改善するとの報告がされています。シンナリジンは、電位依存性カルシウムイオン電流を介して作用すると長年信じられきました。しかし最近の研究では、内リンパ水腫がある場合に活性化される可能性のあるK+電流にて起こると考えれれています。フルナリジンもまた、カルシウム侵入遮断特性により内耳灌流の増加を引き起こすため、末梢のめまいに有効であることが示されています。最近のレトロスペクティブ研究では、ニモジピンとベタヒスチンでの予防療法を受けたメニエール病患者では、ベタヒスチン単独投与での治療を受けた患者と比べ、めまい発症数の減少が見られました。
本研究では、片頭痛を伴う、または伴わないメニエール病におけるベタヒスチンおよびカルシウム阻害薬の有効性が確認され、特に片頭痛を伴うメニエール病において大変良い結果が得られました。しかしながら、難聴の症状は双方のグループにおいて進行し、何かしらの有益な効果も見られませんでした。
これらの研究結果を説明するには、二つの可能性が考慮されるべきです。まずこれら2つの疾患の関連性は、血管の変化によるものであるという可能性が示唆されています。血管けいれんは、長い間片頭痛に関連した特徴(視覚的前兆等)であると考えられてきました。研究者の中には、片頭痛の血管けいれんが内耳の小動脈虚血性損傷を引き起こし、損傷の起きた部位で内リンパ水腫が発生することが原因で、メニエール病と片頭痛の併発が起こるという考えがあります。
一方、片頭痛はメニエール病の発作頻度に影響する可能性があります。メニエール病では月経期間中にめまい発作が増加することがありますが、片頭痛についても同様に月経期間中の増加が見られます。
また片頭痛を患う若い女性に時折起こる低音域難聴に関しても、主に月経期間中に発生するとの報告があります。両ケースにおいて、カルシウム阻害薬はメニエール病の発作予防に効果的であると言えます。
一般的にこれら二つの疾患への根本的なかかりやすさは、カルシウムやその他イオンの重要性によって証明できるでしょう。内耳のイオンチャネルは、内リンパの維持に必要な高いカリウム濃度に不可欠です。カルシウムイオン濃度の増加や減少は、伝達電流を抑圧することが確認されています。とあるマウスを用いた実験では、カルシウムイオンが欠乏したマウスには、遅発性の難聴が見られたという報告があります。さらに、モルモットに対して実験的に内リンパ水腫を誘発した際には、前庭末端器官内でのカルシウムイオン濃度の上昇がみられました。
この研究は小規模で行われましたが、片頭痛を伴う、または伴わないメニエール病に対するシンナリジンの効果の違いを示しています。また、メニエール病の前庭と渦巻管の症状に対するシンナリジンの異なる作用についても推測されます。こうした作用の違いの原因を定義するには、さらなる研究が必要です。
【結論】
本データは、特に片頭痛を伴うメニエール病予防におけるにおけるベタヒスチンとシンナリジンの有効性を明確にしました。こうした症例における片頭痛の予防はめまい発作の減少に繋がるか否かについては、さらなる研究がなされる必要があります。
PMC Journals, 2014年10月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4096024/