男性更年期障害へのホルモン療法は安全?
副作用の心血管系合併症の心配なし
専門家が解説 やる気が出ない、疲れやすい…中高年の男性でも女性と同じように、ホルモンの低下で起きる更年期症状を訴えるケースがあります。
”男性更年期障害”とも呼ばれるこの症状は、正式には「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれている。 治療の一つに少なくなった男性ホルモン(アンドロゲン)を補充するものがあるが、効果が期待できる半面、心筋梗塞などの心臓や血管の病気(心血管病)になる危険性が高まることが指摘されている。 このアンドロゲン補充療法の効果と副作用について、関西医科大学(大阪府枚方市)の松田公志教授(腎泌尿器外科)が、6月26~27日に福岡市で開かれた日本アンドロロジー学会の会合で講演。これまで報告されている研究などを検証し、その結果を報告した。
多くの研究で「心臓病になりやすい」の結果だが… LOH症候群は、ホルモンの低下を中心に、ストレスやうつ症状などが複雑に絡み合って起こるとされている。症状は、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)や発汗、疲労感、抑うつ、不眠のような女性の更年期障害と同じものから、ED(勃起障害)や性欲減退、オーガズム(絶頂感)の低下といったLOH症候群特有のものまで幅広い。
治療には「バイアグラ」などのED治療薬(PDE5阻害薬)を使うこともあるが、効果が高いとされているのが、足りなくなった男性ホルモンを補充するアンドロゲン補充療法だ。松田教授の施設では、この治療を受けた約300人のうち半数弱に有効だったという。 その一方で、この治療法には注意すべき副作用があり、その一つとして心筋梗塞などの心血管病が挙げられている。というのも、これまでの研究で以下のような結果が相次いで報告されたからだ。
*アンドロゲン補充療法を受けなかった人に比べて心血管病になるケースが多い。
(「JAMA」2013; 310: 1829-1836) *バイアグラなどのED治療薬(PDE5阻害薬)に比べて心筋梗塞になる危険性が高い(「Plos One」2014; 9: e85805)
*プラセボ(偽薬)に比べて心臓や血管に関連した障害が発生するケースが多い。
(「NEJM」2010; 363: 109-122)
また、過去27件の研究結果をまとめて解析した研究でも、同じような結論が出ている(「BMC Medicine」2013; 11: 108)。
結論は「あまり心配する必要なし」
ところが今年、これらの論文を細かく検証したレビューが発表され、「生データでは、アンドロゲン補充療法を受けたグループで心血管病の危険性が低い」「そもそもED治療薬との比較自体がナンセンス」「高血圧や浮腫までが”心血管関連の障害”に含まれている」「27研究の解析では、心血管関連の障害が発生しなかった研究が除外された」などの問題点が指摘された(「Asian Journal of Andrology」2015; 17: 187-191)。
また最近では、75件の研究結果をまとめて解析した結果も示され、アンドロゲン補充療法は心血管病になる危険性の上昇に関連しないと結論付けられた(「Expert Opinion on Drug Safety」2014; 13: 1327-1351)。なお、EU(欧州連合)の医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)も、現時点ではアンドロゲン補充療法が心血管関連の障害を増加させるという確かな証拠は示されておらず、(男性ホルモンの)テストステロンの減少が認められている患者では、治療の効果が副作用の危険性を上回るとしている。
以上から、松田教授は「アンドロゲン補充療法による心血管病リスクは、あまり心配する必要はないと思われる」と結論。ただし医師には、患者への説明と同意(インフォームド・コンセント)に気を付けるよう助言している。 (2015年7月24日 読売新聞)
情報元:http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/
専門家が解説 やる気が出ない、疲れやすい…中高年の男性でも女性と同じように、ホルモンの低下で起きる更年期症状を訴えるケースがあります。
”男性更年期障害”とも呼ばれるこの症状は、正式には「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれている。 治療の一つに少なくなった男性ホルモン(アンドロゲン)を補充するものがあるが、効果が期待できる半面、心筋梗塞などの心臓や血管の病気(心血管病)になる危険性が高まることが指摘されている。 このアンドロゲン補充療法の効果と副作用について、関西医科大学(大阪府枚方市)の松田公志教授(腎泌尿器外科)が、6月26~27日に福岡市で開かれた日本アンドロロジー学会の会合で講演。これまで報告されている研究などを検証し、その結果を報告した。
多くの研究で「心臓病になりやすい」の結果だが… LOH症候群は、ホルモンの低下を中心に、ストレスやうつ症状などが複雑に絡み合って起こるとされている。症状は、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)や発汗、疲労感、抑うつ、不眠のような女性の更年期障害と同じものから、ED(勃起障害)や性欲減退、オーガズム(絶頂感)の低下といったLOH症候群特有のものまで幅広い。
治療には「バイアグラ」などのED治療薬(PDE5阻害薬)を使うこともあるが、効果が高いとされているのが、足りなくなった男性ホルモンを補充するアンドロゲン補充療法だ。松田教授の施設では、この治療を受けた約300人のうち半数弱に有効だったという。 その一方で、この治療法には注意すべき副作用があり、その一つとして心筋梗塞などの心血管病が挙げられている。というのも、これまでの研究で以下のような結果が相次いで報告されたからだ。
*アンドロゲン補充療法を受けなかった人に比べて心血管病になるケースが多い。
(「JAMA」2013; 310: 1829-1836) *バイアグラなどのED治療薬(PDE5阻害薬)に比べて心筋梗塞になる危険性が高い(「Plos One」2014; 9: e85805)
*プラセボ(偽薬)に比べて心臓や血管に関連した障害が発生するケースが多い。
(「NEJM」2010; 363: 109-122)
また、過去27件の研究結果をまとめて解析した研究でも、同じような結論が出ている(「BMC Medicine」2013; 11: 108)。
結論は「あまり心配する必要なし」
ところが今年、これらの論文を細かく検証したレビューが発表され、「生データでは、アンドロゲン補充療法を受けたグループで心血管病の危険性が低い」「そもそもED治療薬との比較自体がナンセンス」「高血圧や浮腫までが”心血管関連の障害”に含まれている」「27研究の解析では、心血管関連の障害が発生しなかった研究が除外された」などの問題点が指摘された(「Asian Journal of Andrology」2015; 17: 187-191)。
また最近では、75件の研究結果をまとめて解析した結果も示され、アンドロゲン補充療法は心血管病になる危険性の上昇に関連しないと結論付けられた(「Expert Opinion on Drug Safety」2014; 13: 1327-1351)。なお、EU(欧州連合)の医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)も、現時点ではアンドロゲン補充療法が心血管関連の障害を増加させるという確かな証拠は示されておらず、(男性ホルモンの)テストステロンの減少が認められている患者では、治療の効果が副作用の危険性を上回るとしている。
以上から、松田教授は「アンドロゲン補充療法による心血管病リスクは、あまり心配する必要はないと思われる」と結論。ただし医師には、患者への説明と同意(インフォームド・コンセント)に気を付けるよう助言している。 (2015年7月24日 読売新聞)
情報元:http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/