認知症学ぶ子どもたち…特徴や接し方、理解深める
いじめなくす効果も期待
10年後に700万人の発症が見込まれる認知症。高齢者の5人に1人が認知症になる時代に備え、当事者の孫世代の子どもたちに、病気の特徴や認知症高齢者との接し方を学び、考えてもらおうという活動が広がっている。
「以前は、認知症の人と言えば、訳も分からず叫んだりして、近くに寄れないと思っていました。けれど、そういう行為も、本人には意味があってのことだとわかり、怖いと思わなくなりました」
千葉市内の中学2年の女子生徒(13)は昨年3月、千葉大病院と同市が共同開催した「認知症こども力プロジェクト」の親子教室に母親(46)と参加。クイズ形式の講義や質問コーナーを通じて、認知症に抱いていた印象を一変させた。
「何もわからなくなるわけじゃない。できることもある」「細かい出来事は忘れても、嫌なことをされた、良いことをされた、という感情は残る」「誰でも認知症になる可能性はある」などの知識を、専門医や認知症の人の家族の説明から学んだ。
看護師になりたいという女子生徒。親子教室の経験を生かし、昨夏、近くの介護施設の祭りでは難聴の認知症女性と筆談を交えてスムーズに会話できた。「同じ事を何回も言ったりしますが、あまり身構えず普通に話せばいいのかなと思います。身近な人なら認知症になっても驚かずに接することができそう」と話す。
このプロジェクトについて、千葉大病院神経内科講師の平野成樹さんは「知識不足から、家族と認知症の人の交流が乏しくなるのは望ましくない。子どもたちに早い段階から認知症を学んでもらうことは、社会全体の認識の底上げにつながる」と、企画の意図を語る。
さらに、〈1〉子どもたちが加齢や障害を理解することで、弱い立場の子らをいじめなくなる〈2〉認知症の高齢者も、子どもと触れあう機会が増えれば気分が和らぎ、問題行動が減る〈3〉仕事などで忙殺されがちな大人が子どもに触発され学ぼうとする――などの波及効果を期待する。
昨年スタートした同プロジェクトだが、今夏開く小中学生セミナー(4日間)では、小中学生に、子ども向けの認知症パンフレットを作ってもらう予定だ。グループホーム見学もする。「大人に教わるだけでなく、自分たちで大事だと思うポイントを考えてもらいたい」という思いも込める。
千葉市では、このプロジェクトをきっかけに、他の子ども向け事業でも、グループホーム訪問などの認知症啓発につながる活動をしている。
子どもへの認知症啓発は、今年1月に策定された認知症国家戦略「新オレンジプラン」にも重要性が示されており、各地で広がっている。3世代同居が多いという岩手県では2007年から、岩手医大の医師や心理士が中学校に出向き、「孫世代のための認知症講座」を延べ約100校で開いてきた。5月に開催した中学校では、生徒から「(同居の祖父母に)何度も同じことを言われてイラつくこともありましたが、(講座を聴いて)もっと優しくしようと思いました」との感想が寄せられた。
(2015年6月25日 読売新聞)
情報元 http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/