遺伝子間の「混信」がアルツハイマー病による脳の炎症を促進する
マサチューセッツ総合病院(MGH)の科学者による新しい研究は、アルツハイマー病(AD)を促進する脳組織の炎症を予防する方法についての
手がかりを示しています。
現在オンラインで先行発信が行われ、2019年9月4日発行のNeuron誌に掲載されているこの研究では、
ADの新しい治療法の開発に貢献する可能性があります。
ADである人々の脳は、アミロイド斑として知られる損傷を受けた神経細胞および他のタンパク質の沈着物、
ならびにタウと呼ばれるタンパク質のもつれた形成物で満たされることが知られています。
「しかし、プラークともつれだけがあるのであれば、アルツハイマー病を長期にわたって発症することはないと思われます。」
と、MGHで遺伝学と老化研究ユニットの部長を務める、主任著者である神経科学者のルドルフE.タンジ博士は述べています。
タンジ博士は、むしろ、それはプラークやもつれに反応して起こる炎症、つまり神経細胞をお殺し、認知機能の低下を招く神経炎症であると説明しています。
タンジ博士の研究室は、2008年に『CD33』として知られている、ADの神経炎症に関連する最初の遺伝子を発見しました。
CD33はミクログリア細胞に見られる受容体の遺伝コードを持っています。
ミクログリア細胞は通常脳のハウスキーパーの1つとして働き、プラークやもつれなどの神経学的破片を片付ける役割があります。
2013年に、タンジ博士らは、CD33がミクログリアの活性に影響を与えるという彼らの発見を発表しました。
遺伝子が高度に発現されると、ミクログリアは“ハウスキーパー”から“ニューロンキラー(神経細胞の殺し屋)”に変わり、神経炎症を引き起こします。
一方、他の研究者らは、CD33とは逆の効果を持つ別の遺伝子TREM2を同定しました。
それはミクログリアの神経炎症促進能力を遮断します。
言い換えれば、CD33は神経炎症の「オン」スイッチであり、
TREM2は「オフ」スイッチのように機能するのです。
「この分野での目的は、ミクログリアの神経炎症を止める方法を発見することでした。」
とタンジ博士は言います。
最近の調査で、タンジ博士、そして、神経科学者のアナ・グリシューク博士らは、CD33とTREM2がどのように相互作用するのか、
そして神経炎症において「混信」がどのような役割を果たす可能性があるのか、そして、ADの起源を発見することに着手しました。
そのために、彼らは次のような質問を投げかけました。
「これらの非常に重要な遺伝子が、個別に、そして同時に沈黙した場合に何が起こるのか」
その答えを見つけるために、タンジ博士と彼のチームは、
脳の変化と行動がADと一致するように特別に飼育された実験用マウスを用いて研究しました。
研究チームは、CD33遺伝子が「オフ」になっているADマウスの系統を観察してテストすることから始めました。
彼らは、これらのマウスの脳内のアミロイド斑のレベルが低下しており、迷路の中で自分の道を見つけることなど、学習および記憶のテストにおいて
他のADマウスよりも良好に機能することを発見しました。
しかしながら、マウスのCD33とTREM2の両方を沈黙させたとき、こういった良好な脳の状態と行動は消えました。
それはまた、単一でTREM2遺伝子だけを鎮静させたときにも起こりました。
「それはTREM2が神経炎症を制御するために、CD33の下流で働いていることを私たちに伝えています。」とタンジ博士は言います。
その理論は、CD33およびTREM2の両方が、IL-1βと呼ばれる免疫細胞および細胞受容体IL-1RNの活性を増加または減少させることによって
神経炎症を調節するということを示したミクログリアRNAの配列決定によって強められました。
「アルツハイマー病患者を助けるためには、神経炎症によって引き起こされる大規模な脳神経細胞死を止めることが最も重要であることを
私たちはますます認識しています。」
とタンジ博士は言います。
「我々は今、CD33とTREM2遺伝子がこの目標を達成するための最良の薬物標的であることを理解しています。」
【以下のウェブサイトより引用】